秋は羆にご用心!三毛別羆事件の現地を行く
北海道のヒグマ事情
最近、ヒグマは増えております。
北海道内のヒグマ生息数は現在6,000頭から10,000頭と推定されているが、2019年の江別市森林公園で70数年ぶりのヒグマ侵入や、札幌市南区での徘徊に代表されるように、市街地にも現れるようになってきた。
保護対象であるため、全体的な頭数管理は行われておらず、増加の反面、生息地は年々狭まっており、人間との接触機会も増える分、農業被害・人身被害も増加傾向だ。
それでも、明治大正の開拓時代に比べたら、羆の脅威は格段に低い。
秋の羆は、厳しい北海道の厳冬を越すため、冬眠に備えて栄養を摂らねばならず、そんな羆と山で遭遇したら・・・・と考えると怖い。
冬眠から目覚めた春の羆も危険だ。
腹を空かせて餌を探し求めるタイミングで遭遇したものなら・・・・。
しかし、更に怖いのは冬眠に失敗した羆だ。
例えば身体が大きくなりすぎて、冬眠に使える穴を見つけられず、冬期も空腹抱えて餌を探し回る羆~通称「穴もたず」は、危険度最高レベルである。
その危ない奴に襲われ、数日間に渡り執拗につけ狙われた村があった。
三毛別羆事件・現地
1915(大正4)年の12月9日から14日にかけて、北海道苫前村三毛別(現・苫前町三渓)で発生し、死者7名、重傷者3名(2年後に後遺症で1名死亡)の被害を出した『三毛別羆事件』は日本史上最悪の獣害事件として記録されている。
事件のあらましについては、TVドラマや小説、ドキュメンタリーで数多く取り上げられており、ウィキペディアにも詳細が掲載されている。
たった一頭の人食い羆に銃を持った村人だけでは手に負えず、遠く苫前から警官隊が到着するも実情が判ると恐れをなし、更に遠路の旭川から陸軍部隊を呼び寄せる騒ぎに。
その羆は、最初に食べた女性の肉に味をしめ、執拗に女性を狙い襲ったという。
その現地は現在、集落は無くなり無人であるが、事件の記録を復元した簡易施設がある。
道道1049号線はそこで行き止まりとなる。
復元地の手前数百メートルからは未舗装となり、人家は無い。
羆事件以降、集落から次第に住民が去り、放棄されたそうだ。
現地には当時の簡易な家屋が1棟復元されており、羆の像が家を襲う様子を再現している。
羆は家屋に侵入して母子を食い殺し、別の家屋では羆狩りで男達が出払ってる間、女子供達が避難して集まっていた家屋も襲撃され、多数の死者がでた。
野生動物は火を怖がるなどの説は、この羆にはまったく通用せず、犠牲者の一人は遺体ごと連れ去られ保存食にする為、雪の中に埋められていた。
捜索隊が埋められた女性の遺体を見つけ、持ち帰った。
村人が通夜を営んでいたところ、羆が遺体を取り返す為、外壁を破って侵入してきた。
「自分の獲物」への執着はすさまじく、棺桶から遺体をさらっていったという。
尋常でない凶暴な相手に、北海道警察も手をこまねいていた訳ではなく、村人を説得して「遺体を餌にして羆をおびき寄せ撃ち取る」という異例の待ち伏せ作戦を実施する。
しかし勘の良い羆は危険を察したのか、周囲を徘徊するも立ち去ってしまったという。侮れぬ知能だった。
最後の防衛線で撃退した場所
遺体囮作戦も失敗、雪深い六線沢集落は放棄し、三毛別川を渡った側にある集落へ住民は全員避難したものの、そこも危険度は大差ない。
羆は空き家になった家屋を荒らし回り、貯槽食品を食い荒らし、昼間も行動するようになって、もはや人を恐れなくなっていた。
事件発生から4日目の12月13日午後8時頃。
当時、ここに架かっていた「氷橋」と呼ばれる仮設橋を前に、警官隊とマタギが警戒していたところ、一人が暗闇の中の不審な動きに気づいた。
対岸には大木を切り倒した切り株が6つあるのだが、どうも1つ増えているように見える。
切り株が7つ?
ざわつく警官隊は銃を構え「熊か?人か?」と問うが、応えがないまま切り株が動いた!
そこで一斉に射撃すると、やはり潜んでいたのは羆であった。
味を覚えた女の肉を食べたさに、避難先へ狙って川を渡るつもりだったのか。
そして羆の渡河をここで阻止したことに因み、現在も「射止橋」と呼ばれている。
人食い羆の記憶
射止橋での射撃で羆は傷を負い逃走するが、かすり傷程度のダメージした与えていない。
しかし血痕が雪の上に続いていたので、翌14日から陸軍と警察・銃をもつ近隣村人など200人態勢の討伐隊が追跡を開始。
午前10時頃。
木陰に身を隠し、追ってくる討伐隊を注視していた羆を、別方向から密かに接近した伝説のマタギが二発撃ってついに仕留めた。
羆事件復元地への道は『ベアーロード』と名付けられて、可愛らしい羆親子のキャラクターが描かれた看板が、多数掲げられている。
羆事件も世間に認知されるようになり、混み合うことは無いが、現地を観ておこうとわざわざやってくる観光客が結構います。
公共交通機関は無いので、車しか訪問手段がありませんし、冬期は雪に埋まり近づくこともできません。
見学は無料です。
その代わり案内スタッフもおらず、羆に背後を取られないよう警戒しながらの見学です。
現地を観たあと、27km離れた苫前町中心部にある『苫前町郷土資料館』には、より詳しい記録や展示がありますので、併せて見学するのをお勧めします。
悲惨な事件から104年。
現地の慰霊碑では毎年、犠牲者への法要が行われているそうです。
105回目の冬が三毛別にくる。
三毛別羆事件復元地アクセス・詳細
道道1049号線行き止まり地点
見学期間:5月1日から10月下旬
※照明設備が無いので夜間の見学は危険。
※携帯電話は圏外
※見学無料・スタッフ無し、トイレ無し
※復元家屋内にパンフレット、訪問記念スタンプあり
【問い合わせ】
苫前町企画振興課 商工観光係
電話 0164-64-2212